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まちだいきものかるた絵札制作関係者にインタビューをしました

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更新日:2025年8月6日

まちだいきものかるたの絵札制作に携わった方にインタビューしました

まちだいきものかるたの絵札は当時学校法人玉川学園玉川大学学生であった永野聡氏に描いていただきました。
絵札を制作していた当時や完成後の感想について、永野氏と永野氏の教授であった小北教授にインタビューしました。

永野聡氏インタビュー内容

制作のきっかけと、最初に抱いたイメージについて教えてください。

町田市のゴミ削減を目的に制作した「ティッシュリーフ」のイラストを町田市の職員の方に評価していただいたことが、今回のご依頼につながるきっかけになりました。

話を伺っていくうちに、町田市が生きものの保全活動に取り組んでいることを知りました。私自身も、その活動に少しでも貢献したいと感じ、参加することを決めました。

制作前には、「町田に50音分の生きものが本当にいるのだろうか」という疑問を抱きました。私は町田市外から通学していたため、町田の生きものについて詳しく知らず、知っていたのはカワセミ程度でした。しかし、生きもののリストを見せていただいたときには、その種類の多さにとても驚きました。


デザイン制作の過程について教えてください。

制作に取りかかる前に、まずは現地調査を行いました。薬師池公園や忠生公園、小山田緑地などを巡り、町田市職員の方の説明を受けながら、生きものの観察を行いました。

現地での体験やいただいた資料を参考にして、イラスト制作を始めました。イラストを描くときは、生きものの動きを想像しながら、自分が現地で感じたワクワク感を絵に反映できるように心がけながら描き進めました。


制作の中で苦労したことと、その乗り越え方を教えてください。

私は玉川大学のメディアデザイン学科で、主に広告やレイアウトなど、「どう見せるか」という視点のデザインを学んできました。そのため、今回のように一からイラストを描く経験は初めてに近く、特に動物や植物を描くのは新しい挑戦でした。

ゲームが好きで、キャラクターを描くことには慣れていましたが、自然の生きものの構造は想像以上に複雑でした。専門家の方々から「この足の長さは違う」「羽はこうつくはず」といった具体的な助言をいただきながら、何度も修正を重ねました。

一枚描いては提出し、フィードバックを受けて修正するという作業を繰り返す中で、時間はかかりましたが、絵を描くことについて多くを学ぶことができました。


特に印象に残っている札について教えてください。

お気に入りは、「え」の「エナガ」です。白くてふわっとした可愛らしさをどう表現するかにこだわり、色合いや構図、表情を工夫しました。背景も含めて全体の雰囲気がうまくまとまったと感じています。

反対に苦労したのは、「り」の「カラスウリ」です。繊細な線を表現するのが難しく、一晩だけ咲く花の儚さを絵でどう伝えるかに悩みました。また、「は」の「ハラビロカマキリ」は体の構造が複雑で、パーツごとに分けて描き、後で合成するという方法で対応しました。


どのようにこのかるたを活用してほしいですか?

かるたとして遊ぶだけでなく、絵札を持ってまちに出て実際に生きものを探してみたり、自分なりの読み札を作ってみたりと、自由な発想で楽しんでいただけたら嬉しく思います。

このかるたが、町田の自然や生きものに関心を持つきっかけとなり、学びや発見の入り口になることを願っています。


完成品を手にしたときの気持ちを教えてください。

とても嬉しかったです。「本当にかるたになったんだ」と思いました。それまではイラストを描いても、インターネットに掲載する程度でしたが、今回は印刷されて実際に手に取ることができるかたちになったことで、大きな達成感がありました。

絵が枠から少しはみ出すような構図を意識したデザインも、実際の印刷でうまく仕上がったと感じました。また、読み札を考えた小山小学校の児童たちに絵札の解説を行った際、「この絵、カワセミだ!」とすぐに反応してくれて、とても嬉しい気持ちになりました。


最後にメッセージをお願いします。

「まちだいきものかるた」を通して、町田にいる多様な生きものたちに興味を持ってもらいたいと考えています。私はデザインを通じて「伝える」ことを学んできましたが、今回のプロジェクトではイラストという手段でその役割を果たすことができ、本当に貴重な経験になりました。

このかるたが、町田の自然に目を向ける第一歩となり、たくさんの人の学びや発見につながってくれることを願っています。

小北教授インタビュー内容

永野さんにデザインを依頼した背景を教えてください。

一番の理由は、永野さんが「絵を描くことが好き」であるということです。かるた全体の絵札をトーンを揃えて描ききるには、単なる得意・不得意以上に「好き」であることが必要です。

また、永野さんは誠実な人柄で、現地調査や写真観察などにも積極的に取り組み、単なる模写にとどまらず、適切なアレンジを加えて絵に落とし込む力もありました。「好き」という気持ちを土台に、粘り強さと技術を併せ持つ人物であることが、依頼の決め手となりました。


デザインを進めるうえで意識したことは?

制作の初期段階で、「このかるたを誰に届けたいのか」を町田市の担当者と丁寧に確認しました。目的は「かるたを作ること」ではなく、「子どもたちに使ってもらい、そこから行動が変わること」です。そのため、かるたを通して子どもたちが楽しく生きものを学べるように、適度な写実性を持ちながら、子どもが惹かれるような表現、いわば“ゲームのキャラクターブック”のようなイメージを心がけました。

永野さんの画風とも相性が良く、「描き手自身が楽しんでいること」が絵を通して子どもたちにも伝わる。だからこそ、楽しく手に取ってもらえるような絵のチューニングを大切にしました。


制作を通して見えた永野さんの成長は?

永野さんは、初めから制作の意図を理解してくれていましたが、実際に画風や表現スタイルを固めるまでは、構図や背景などで多くの試行錯誤がありました。たくさんの試作を通して粘り強く改善を重ね、徐々に方法論を確立。ペースも精度も上がっていき、自信もついてきたように感じました。とても頼もしかったです。


絵のテイストで工夫した点はありますか?

たとえばバッタの絵では、図鑑通りの描写では動きが伝わりません。カルタの枠内に収めるのではなく、少しはみ出すような表現で、「画面の外に世界が広がっている」ような雰囲気を大切にしました。

また、写実性とデフォルメのバランスにも工夫を凝らしました。たとえばカワセミの羽の角度など、実際とは異なる部分もありますが、それは子どもたちが興味を持ちやすいように考えた結果です。漫画のようにしすぎず、それでも親しみやすい、丁寧な描写を心がけました。


「まちだいきものかるた」をどのように活用してほしいですか?

まずは子どもたちに「気に入ってもらう」ことが何より大切です。そこから生き物への興味が芽生え、やがては環境に関心を持つ大人へと育ってくれるかもしれません。

このかるたには図鑑的な要素も多く含まれており、遊びながら知識を深めることができます。子どもだけでなく、親御さんと一緒に楽しむことで、家族で自然や命について考える時間も生まれるでしょう。

たとえば、お気に入りの生きものを紹介し合う、町田市の地図上で生息地に絵札を置いてみるなど、かるた以外の使い方も多様に広がる教材です。まさに「遊べる図鑑」として、学びと遊びをつなぐ存在になれると考えています。


子どもたちが実際に遊んでいる様子を見て感じたことは?

正直、最初は「呼びかけないと集まらないかも」と心配していました。でも、かるたを並べた瞬間、子どもたちが一斉に集まってきて、思わず涙が出そうになるほど感動しました。「届いたんだ」と強く感じました。

また、実際に遊んでいる様子から、かるたの上に乗らないように事前に伝えるといった安全面の配慮や、新しい遊び方のヒントも得られ、私自身にとっても多くの発見がありました。


完成品を手にしたときの印象は?

まず感じたのは、すべての札の完成度が「均質な仕上がりである」こと。つまり、ムラなく仕上がっているということです。モチーフによって気持ちの入り方に差があると、作品全体にでこぼこ感が出てしまいます。

でも永野さんは、どの札にも誠実に向き合い、集中力を持って描き上げました。だからこそ、全体として非常に完成度の高い仕上がりになったと思います。


このプロジェクト全体を振り返って感じたことは?

「まちだいきものかるた」は一見カジュアルですが、制作過程は非常に複雑で、多くの手間と判断が求められました。永野さんの絵、子どもたちの言葉、専門家の知見、町田市の環境データなど、さまざまな要素を適切にまとめ、かたちにしていく作業を、町田市の職員の方々が丁寧に進めてくださったことに、深く感銘を受けました。

このかるたは、(1)親しみやすさと専門性、(2)ゲーム性と図鑑性、(3)多様な使い方ができる柔軟性、という三つの要素が絶妙なバランスで成り立っている、非常に完成度の高いプロダクトです。このプロジェクトに関わることができたのは、私にとっても大きな喜びです。


おわりに

「まちだいきものかるた」は単なる遊具ではなく、町田の子どもたちが生き物や環境に目を向ける“最初のきっかけ”です。絵や言葉、制作に関わった人々の思いが温かさとなって伝わる、そんなカルタに仕上がったと感じています。未来を担う子どもたちの手に、これからも多く届いていくことを願っています。